「深い呼吸」は、多くの酸素を身体に取り込めるため、様々な不調を改善してくれる効果があります。また、横隔膜などのインナーマッスルを鍛える効果もあるため、美しい姿勢の維持や基礎代謝アップにもつながります。
そこで今回は、深い呼吸をするために注意すべきことと簡単なトレーニング方法について詳しく解説します。 呼吸トレーニングをこれから始める方にもおすすめの内容となっておりますので、ぜひ最後までお読みくださいませ。
「浅い呼吸」と「深い呼吸」の違いとは?
私たちは普段、特別な意識をすることなく自然に呼吸を繰り返しています。しかし、呼吸には大きく分けると「浅い呼吸」と「深い呼吸」の2つのタイプがあります。それぞれどのような特徴があるのか詳しく見てみましょう。
① 深い呼吸【肺がしっかり膨らむ呼吸】
深い呼吸とは、肺がしっかり膨らんで多くの空気を取り込むことができる呼吸のことです。
私たちが生きていくためには酸素が必要で、呼吸によって肺で取り入れられた酸素は体内で消費されると二酸化炭素になって外へ排出されます。
肺は、空気を吸い込んだときに膨らみ、空気を吐いたときにしぼむ風船のような性質があります。しかし、肺自体には収縮を調整する機能はなく、横隔膜をはじめとした「呼吸筋」が動くことで収縮をくりかえします。つまり、「深い呼吸」とは、呼吸筋がしっかり機能して肺が十分に膨らむ呼吸のことを指すのです。
② 浅い呼吸【肺がしっかり膨らまない呼吸】
浅い呼吸とは、肺がしっかり膨らまないために空気を十分に取り入れることができない呼吸のことです。
上述したように、肺には胃や腸などのように筋肉がないため、呼吸をするには呼吸筋のサポートが必須です。そのため、呼吸筋が弱くなるとしっかり肺を膨らませることができなくなり、一度に吸い込むことができる空気の量は少なくなります。
このような「浅い呼吸」は、身体を動かすと息切れしやすくなるなど様々な不調を引き起こします。
③ 浅い呼吸になる原因とは?
呼吸が浅くなる最も大きな原因は横隔膜などの呼吸筋が弱くなることです。肺は呼吸筋のサポートによって膨らんだりしぼんだりするため、呼吸筋がしっかり機能しない状態では当然ながら肺の膨らみも弱くなります。
また、呼吸の浅さは自律神経バランスの乱れにも影響されます。自律神経は、交感神経と副交感神経から成り、身体の機能を調整する神経です。自律神経のなかの交感神経は言わば身体を活発にする神経ですが、交感神経が過剰に働くと呼吸の回数が多くなると共に呼吸が浅くなりがちになります。
自律神経バランスの乱れは、ストレスや睡眠不足などによって引き起こされることも多いため、不規則な生活が呼吸の浅さにつながっていることも少なくありません。
「深い呼吸」をするメリットとは?
「深い呼吸」は肺がしっかりと膨らんで多くの空気を取り込むことができる呼吸のことです。では、「深い呼吸」をすることで私たちの身体にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
① 多くの酸素を取り込める
肺をしっかり膨らませて深い呼吸をすると、一度の呼吸で効率よく多くの酸素を取り込むことができます。酸素は私たちが生きていく上で必要不可欠なものです。身体の中の酸素が不足すると身体を動かしたときに息切れしやすくなって活動性が低下し、肥満などの不調につながることに。
深い呼吸で多くの酸素を取り込むことができれば、身体を動かすことが苦になりにくいため活動性が高まっていきます。脳にもしっかり酸素が届くので頭がすっきりするなど多くの健康増進効果があります。
② インナーマッスルが鍛えられる
深い呼吸を繰り返していると横隔膜などの呼吸筋が鍛えられます。横隔膜は、身体の奥にあるインナーマッスルの一種です。呼吸のサポートをするだけでなく、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋などのインナーマッスルと共に体幹を支える働きあります。
横隔膜はこれらの一番上の位置に存在し、「屋根」のように他のインナーマッスルを支えています。そのため、横隔膜がしっかり鍛えられていると、他のインナーマッスルも刺激されて鍛えられることになるのです。
インナーマッスルが鍛えられると基礎代謝がアップして太りにくい身体になるだけでなく、姿勢が良くなることや内臓の機能が安定することなどもメリットとして挙げられます。
ンナーマッスルの具体的なトレーニング方法はこちら記事で紹介しているので、参考にしてみてください。
③ 自律神経バランスが整う
横隔膜の周囲には自律神経の束が多く集まっています。横隔膜が呼吸によって上下に動くと、この自律神経の束が刺激されて副交感神経が優位になるとされています。深い呼吸は横隔膜が大きく動く呼吸であるため、自律神経バランスを整える効果があると考えられます。
副交感神経は、心に安定や落ち着きをもたらしてリラックス効果を発揮する働きがあります。日ごろからイライラしやすい方や気分が落ち込みやすい方は特に深い呼吸を意識してみましょう。
自律神経のバランスを整える方法は下記の記事でもご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
呼吸方法を変えて自律神経バランスを整えよう!【医師が詳しく解説!】
呼吸を深くするトレーニングに挑戦しよう!
最後に、呼吸を深くするトレーニングをご紹介します。トレーニング初心者でも簡単にできますのでぜひ挑戦してみてください。
① 呼吸筋ストレッチ体操
呼吸には横隔膜だけでなく、肋間筋、腹横筋、腹直筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋など首からお腹にかけての多くの筋肉が関わっています。これらの「呼吸筋」がこり固まって柔軟性が失われた状態になると息を吸ったり吐いたりしたときに十分に胸が膨らまず、浅い呼吸になります。深い呼吸をするには、呼吸筋の柔軟性と筋力をキープするストレッチを行いましょう。
呼吸筋ストレッチ体操には多くの方法がありますが、首・肩・胸・背中・お腹を順番にほぐしていくことが重要です。
まずは、肩幅に足を開いた状態で背筋を伸ばして立ちってゆっくり呼吸をしながら肩を上げ下げしましょう。首や肩周りの呼吸筋がほぐれます。次は、両手を胸の前で組み、ゆっくり息を吐いて背中を丸めてお腹をへこませながら腕を前に伸ばしましょう。
この動きは背中と胸の筋肉をほぐしてくれます。そして最後は、肋間筋や腹筋を伸ばすため、両腕を腰の後ろで組み、ゆっくり息を吐きながら腕を下へ伸ばしていきましょう。肩甲骨がしっかり動くのを意識するのがポイントです。
お風呂上りなど身体が温まっているときに行うのがおすすめです。
呼吸筋における具体的なトレーニング方法はこちら記事で紹介しているので、参考にしてみてください。
② ドローイン
呼吸筋の中でも深い呼吸に最も関わっているのは横隔膜です。呼吸筋ストレッチ体操で呼吸筋をほぐしたら、横隔膜を強化するトレーニングをしてみましょう。
初心者にもおすすめなのは、「ドローイン」という呼吸を繰り返すトレーニングです。
まずは、両膝を立てた状態で仰向けに横になりましょう。大きくお腹を膨らませながら鼻から息を吸い込み、最大限までお腹が膨らんだら鼻からゆっくり息を吐いてお腹をへこませていきます。そして、次はお腹をへこませたまま鼻で息を吸って吐いてみましょう。この2種類の呼吸を10回ほど繰り返します。
横隔膜が上下にしっかり動くのを意識しながら行うのがポイントです。効果的にできるようになると腹直筋や腹横筋などの呼吸筋も鍛えることができるので一石二鳥ですね。
③ エアロフィットを使って簡単トレーニング
トレーニングは苦手…という方におすすめなのが、効果的なデバイスを用いたトレーニングです。
特にデンマーク生まれの「エアロフィット」は、デバイスを口にくわえて1日5~10分「吸う・吐く・とめる」のアクションを繰り返すだけで、肺活量が50%以上向上するというデータがある優れもの。横隔膜などの呼吸筋をしっかり鍛えることができます。
トレーニングをする時間がない方もスキマ時間に行えますので、ぜひ試してみてください。
呼吸を深くして、健康的な身体を手に入れよう!
呼吸を深くすることは、様々な健康増進効果があります。しかし、普段から意識せずに行っている呼吸はついつい浅くなりがち。知らず知らずのうちに浅くなった呼吸が心身の健康を害しているケースも少なくありません。
健康な身体をキープするためにも、呼吸は深くすることを意識してみましょう。今回ご紹介したエクササイズにもぜひ挑戦してください!
執筆者 成田 亜希子 医師
2011年医師免許取得
一般内科医として幅広い疾患の診療に携わる
行政機関での勤務経験もあり、健康増進分野にも精通している
結核研修所でも研鑽を積み、呼吸器疾患にも詳しい