心と身体を整えるうえで重要な呼吸。呼吸方法には腹式呼吸や胸式呼吸などさまざまな種類がありますが、腹圧を高めたまま行う呼吸があります。この腹圧は、筋トレやスポーツに取り組むうえで、身体の安定性を保つためにも非常に重要であるといわれています。
そこで本記事では、腹圧を高めた呼吸方法や、腹圧を意識すべき理由についてくわしく解説します。
腹圧を意識した呼吸とは
腹圧を意識した呼吸とはどのような呼吸なのでしょうか。ここでは腹圧を高めるうえで大切な呼吸筋とは何か、また、筋トレを行うときにおすすめの呼吸をお伝えします。
● 腹圧とは
腹圧とは腹腔内圧力のことを指します。人間の腹部には胃や腸などの臓器が収納されている空間があり、これを腹腔と呼びます。腹腔のまわりには横隔膜、骨盤底筋、腹横筋などの筋肉があり、それらの筋肉が収縮したりゆるんだりすることで、腹腔内の圧力が変化します。
私たちが「いきむ」という動作をするとき「腹圧が高い」状態となります。腹圧を上げる機能を担っているのがインナーマッスルです。
一方で、「腹圧が低い」状態とは、身体に力が入っておらず、お腹のなかの空間がゆるんでいる状態のこと。横隔膜がゆるみ、腹圧が低いと身体の安定感が失われ、無理にバランスを取ろうとして無意識のうちに姿勢が悪くなりがちです。
● 腹圧を高めるうえで大切な呼吸筋
腹圧を高めるためには、横隔膜などの「呼吸筋」をしっかりと使うことが重要です。おもな呼吸筋には横隔膜と肋間筋などがあります。
横隔膜が縮んで下がると、肺も膨らんで息を吸うことができます。反対に、横隔膜が伸びて上がると、肺も下から押し上げられて小さくなります。肺が縮むと肺の中の空気が外へ押し出され、息を吐くことができます。また、肋間筋は肋骨にある筋肉で、内肋間筋、外肋間筋、最内肋間筋からなっています。おもに安静時の呼吸に関わる筋肉です。
● 筋トレ時におすすめの呼吸
デッドリフトやスクワットなどの筋トレを行うとき「腹圧を高めることが重要である」といわれます。
腹圧を高めることによって体幹が安定し、運動エネルギーをうまく伝えることができるようになります。その結果、大きい力を発揮することができるだけでなく、腰への負担を減らしケガの予防もできるのです。さらに、高重量になればなるほど、腹圧が挙重量を大きく左右します。
デッドリフトのときの呼吸は、まず大きく息を吸ってお腹まわりをふくらませます。そのまま軽く息を止めてバーベルを持ち上げ、バーベルを上げきる前に息を吐くようにします。呼吸のタイミングを意識するだけでも、デッドリフトの効果を高められるといわれています。
腹圧を意識すべき理由
腹圧を意識した呼吸を行うと私たちの身体にはどのような変化がもたらされるのでしょうか。ここでは以下の5つの効果をご紹介します。
- 脂肪が燃焼しやすくなる
- フォームが安定する
- けが防止につながる
- 自律神経を整える
- 歌声が安定する
それぞれくわしく見ていきましょう。
● 脂肪が燃焼しやすくなる
通勤などの移動中や歩行時にも腹圧を高めることで、ランニングやウォーキングの有酸素運動並みの脂肪燃焼効果があるといわれています。
腹圧を高めたまま呼吸を行うことは、慣れていないときつく感じられるかもしれません。しかし、日常のちょっとした動きでもお腹が使われていることを意識して、腹圧をかけることが大切です。
また、腹圧を高めると内臓が正しい位置に戻り、腹部の筋肉も鍛えられ、お腹まわりが引き締まるため、スタイルアップにも効果があります。
● フォームが安定する
腹圧を上げることがスポーツで重要視されるのは、体幹が安定し、正しい姿勢になるためです。腹圧を上げることは、そのままスポーツの動作やパフォーマンスに好影響を及ぼすのです。
● けが防止につながる
腹圧を正しくかけることができるとけがの防止にもつながります。とくに高重量を扱うデッドリフトなどの筋トレでは、背骨に大きな負担がかかり重大なけがにつながる恐れも。また、さまざまな要因から腰痛が発生しますが、腹圧を高めることで背骨が安定し、腰への負担が軽減されて腰痛の予防や改善にもつながります。
● 自律神経を整える
腹圧を高める呼吸は呼吸のリズムが自然とゆっくりになります。腹圧を高める呼吸を行うと、肺の下にある横隔膜が上下運動します。この横隔膜に自律神経が密集しているため、吐く息を意識的にゆっくりとするほど自律神経を刺激し、副交感神経が優位になり、リラックスした状態になります。
● 歌声が安定する
腹圧を高める呼吸を行うと、歌声が安定するといわれています。歌声だけでなく日常においても声が通りやすいなどのメリットがあるでしょう。
腹圧を高めると体幹が安定し、身体のバランスがとりやすくなります。お腹をしっかり使って声を出せるようになると、声の響き方が変わり、音域や表現力が広がります。また、声量のコントロールもしやすくなるため、歌声が安定してくるでしょう。高音なども出しやすくなり、一曲について余裕を持ちながらたっぷり歌いきることができます。
腹圧を高める「丹田呼吸」
腹圧を高めたまま行う呼吸に「丹田呼吸」というものがあります。丹田呼吸とはいったいどのような呼吸方法なのでしょうか。ここでは丹田の意味と丹田呼吸のやり方についてくわしくお伝えします。
● 丹田とは
丹田(たんでん)という言葉は、日常的にヨガなどをしている方は耳にしたことがあるかもしれません。丹田はへその下5cmのところにあるツボのことです。人間の身体の重心は、この丹田にあるともいわれています。
また、丹田は上半身と下半身をつなぐ位置にあり、生命、エネルギーの根源として古来、中国人によって大切なものとして考えられてきています。丹田を意識することで、心身ともに安定感が得られるといわれています。
● 丹田呼吸の方法
丹田呼吸は丹田に圧力をかける呼吸法のことです。丹田呼吸は吐く息のときに丹田に力を入れ、意識を集中させます。この呼吸法で、副交感神経が刺激されストレスの緩和にもつながります。また、脳波がα波へと移行しやすくなるため、ひらめきや直感力が高まることいわれています。
それではさっそく、丹田呼吸を実践してみましょう。
(やり方)
- あぐらの姿勢で座り、肩の力を抜き、背筋を軽く伸ばす
- 軽く目を閉じ、右手または両手を「丹田」に置く
- 身体の中にある空気をすべて口から吐き出す
- 鼻から息を吸うときにお腹をふくらませる
- 鼻から息を吐くときにお腹をへこませせる
これを10回ほど繰り返しましょう。
腹圧を意識した呼吸方法で心と身体を整えよう
今回は腹圧を意識すべき理由や腹圧を高めたまま行う呼吸について紹介しました。
腹圧が高い状態では、体幹が安定し、正しい姿勢を保つことができます。また、自律神経のうち、リラックスした状態をもたらす副交感神経が優位にはたらきます。
このように、腹圧を高めた呼吸は身体にさまざまなメリットをもたらします。今回ご紹介した丹田呼吸をはじめ、腹圧を意識した呼吸を行い、心と身体を整えましょう。