複雑な人間関係や、先行き不透明な未来への不安、新型コロナウイルスの世界的大流行……など、現代社会においてストレス要因となるものを挙げたらきりがありません。不安や焦り、いら立ちなどのネガティブな感情を抱いている人も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は日常生活で気軽に活用できる「呼吸筋リラクゼーション」の方法をお伝えします。心身ともにリラックスすることで不安や緊張を和らげるだけでなく、運動時のパフォーマンス向上にも役立ち、深い呼吸ができるようになるでしょう。
リラクゼーションとは
リラクゼーションとはどのような状態をあらわすのでしょうか。あた、リラクゼーションとマッサージの違いについても解説します。
● 心身の緊張をときほぐし、リラックスした状態
リラクゼーション(relaxation)とは、体の筋肉を緩め、心身ともにリラックスした状態になること。ゆったりとした気分で過ごし「癒やし」を目的とします。
私たちが不調を感じるときの原因として多いのが、自律神経の乱れ。自律神経は交感神経と副交感神経から成り立っています。日中、活発に活動している状態のときだけでなく、不規則な食生活やストレスなども交感神経を優位にし、心も身体も緊張状態にあります。そこで、リラクゼーションによって副交感神経を優位な状態にし、自律神経のバランスを整えることができます。
●` リラクゼーションとマッサージの違い
リラクゼーションと混同されがちな言葉としてマッサージがありますが、両者は似て非なるものです。
まず、リラクゼーションは心身の癒し、緊張の緩和が目的である一方、マッサージは身体の不調や痛みの改善が目的です。また、マッサージは医療・治療行為に該当するため、医療行為として施術を行うためには国家資格が必要です。
身体の不調や痛みにフォーカスするマッサージとは異なり、リラクゼーションは空間や香りにもこだわることで、精神面にもアプローチすることができます。「心も身体も癒したい」という人には、リラクゼーションのほうが向いているといえるでしょう。
呼吸筋とは
呼吸筋リラクゼーションについてお伝えする前に、そもそも呼吸筋とはいったいどのような筋肉なのでしょうか。
● 呼吸をつかさどる筋肉である呼吸筋
人間の呼吸をつかさどる身体の器官である肺。肺は、空気中の酸素を身体に取り入れ、いらなくなった二酸化炭素を体外へ排出するはたらきを担っています。
しかし、呼吸をするときに肺自体が動いているわけではありません。肺を取り巻く筋肉が動くことで、肺が大きく膨らんだり小さく縮んだりを繰り返し、呼吸を行っています。このように肺を動かす筋肉をはじめ、呼吸に関わる筋肉が「呼吸筋」です。息を吸うための筋肉を「吸息筋(きゅうそくきん)」、息を吐くための筋肉を「呼息筋(こそくきん)」と呼びます。
呼吸筋の中でも特に重要な筋肉が「横隔膜」です。横隔膜は肺のすぐ下にあり、ドーム型の筋肉です。横隔膜が上がって収縮すると胸が広がり、肺の中に空気を取り込むことができます。人間が安静にしているとき、吸息の約70%は横隔膜の収縮によって起こるといわれています。
呼吸筋リラクゼーションで得られる効果
次に、呼吸筋リラクゼーションをご紹介します。呼吸筋リラクゼーションで得られる効果は
- 身体により多くの酸素を取り込めるようになる
- 姿勢が良くなる
- 不安やストレスが軽減される
の3つが考えられます。一つずつくわしく見ていきましょう。
● 身体により多くの酸素を取り込めるようになる
呼吸筋リラクゼーションによって、身体のすみずみまでより多くの酸素を行き渡らせることができます。
体内の酸素量が増えると、運動をしていても疲れにくい身体になります。持久力が向上するため、ジョギングや水泳、自転車のようなスポーツを行う人にとってはより長くスポーツを楽しむことができるようになるでしょう。
特に身体の中で酸素消費量が大きい場所が脳です。身体により多くの酸素を取り込めるようになると、脳にも多くの酸素が届きます。脳に酸素が行き渡ると気分がリフレッシュされ、集中力が増すことが期待できるでしょう。
● 姿勢が良くなる
呼吸筋リラクゼーションによって、呼吸筋のしなやかさを取り戻し、横隔膜をしっかり使った呼吸ができるようになると姿勢がよくなります。
横隔膜をはじめとした体幹に位置するインナーマッスルは、姿勢保持に重要な筋肉群です。逆に、呼吸が浅くなり、横隔膜が十分に働かなくなると姿勢不良や猫背、腰痛の原因の一つになってしまうのです。
● 不安やストレスが軽減される
呼吸筋リラクゼーションによって副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが整うと、不安やストレスの軽減にもつながります。
自律神経は交感神経と副交感神経といった2つの神経から成り立っています。現代人は交感神経が優位になりやすく、身体が活動モードに傾きがち。そのため、意識的に副交感神経のはたらきを高め、身体を回復モードへと導くことが大切です。さらに、自律神経が整うと免疫機能も向上しやすくなるといわれています。
呼吸筋リラクゼーションの方法
呼吸筋リラクゼーションの方法として
- 呼吸筋ストレッチ
- 呼吸筋マッサージ
- 腹式呼吸
の3つをご紹介します。
● 呼吸筋ストレッチ
呼吸筋ストレッチとは、呼吸筋を伸ばしたり縮めたりする体操で、呼吸筋の柔軟性を高めることができます。特に首、胸郭、背中を中心にストレッチを行うことで、深くゆったりした呼吸ができるようになるだけでなく、猫背などの姿勢の悪さを改善することができます。
呼吸筋ストレッチを行うときも、吸う」「吐く」という動作をゆっくり行い、呼吸をしっかり意識してみましょう。
呼吸筋ストレッチのくわしい方法は下記の記事でもご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
呼吸筋を鍛えるためのストレッチとは、どのようなもの? そしてその効果とは?
● 呼吸筋マッサージ
呼吸筋マッサージを行うことで、呼吸が楽になるだけでなく、首、肩こり解消や気持ちの安定などうれしい効果が期待できます。
ここでいう「マッサージ」とは、前述したような医療行為にあたるものではなく、セルフマッサージを含む広義のマッサージです。
呼吸筋のマッサージは、みぞおちの奥にある横隔膜を手で刺激したり、ほぐしたりします。また、首の横にある太い筋である胸鎖乳突筋を押したり、もみほぐしたりすることで首のたるみの解消や、顔を引き上げる効果もあるとされています。
呼吸筋マッサージについても、くわしい方法は下記の記事でご紹介していますのでぜひご覧ください!
【セルフケアで深い呼吸をしよう!】呼吸機能の改善を促す呼吸筋マッサージ
● 腹式呼吸
腹式呼吸は横隔膜をしっかり使った呼吸法です。この横隔膜には自律神経が集まっているといわれ、腹式呼吸によって副交感神経を刺激し、心身をリラックスさせることができます。また、腹式呼吸を行うと「セロトニン」というホルモンが分泌されます。セロトニンは幸せホルモンとも呼ばれ、気持ちを落ち着かせ、リラックスした気分になれるのです。
腹式呼吸の効果を得るためには、背筋を伸ばして、リラックスした状態で行いましょう。
緊張状態にある呼吸筋を時にはゆるめよう
私たちが呼吸をするときに必ずはたらく呼吸筋。常に稼働し、緊張状態にある呼吸筋はゆるめることも大切です。
呼吸筋リラクゼーションの方法には呼吸筋ストレッチやマッサージ、腹式呼吸などがあります。ライフスタイルに合わせて無理をせず、できる範囲で取り入れてみましょう。