人間は平均すると1日に2万回呼吸するといわれています。実は呼吸で動くのは人間の肺ではなく、肺を動かす筋肉を中心とした呼吸筋と呼ばれる筋肉群です。
この呼吸筋を鍛えることにより呼吸がしやすくなることは簡単に想像できますが、では、呼吸がしやすくなることにより、体にはどのような効果が現れるのでしょうか。この記事では、呼吸筋を鍛えることによる効果を、日常生活における具体例も含めてお届けします。
呼吸筋を鍛えることで、体に起こる効果とは
人間の呼吸をつかさどる筋肉群が呼吸筋と呼ばれます。筋肉なので、意識次第で鍛えることもできますし、加齢や病気なので筋力が弱くなることもあります。そして、もちろん、呼吸筋が弱くなると、肺自体は問題がなくても呼吸困難に陥る可能性もあります。
では、呼吸筋を鍛えることにより、体にはどんな変化があるのでしょうか。大きく分けて次の3つが考えられます。
①呼吸筋の動きが活発になる。
呼吸筋を鍛えることにより、呼吸筋が大きく活発に動くことができるようになります。人間の呼吸を担当する体の器官は肺ですが、実は肺自体が動いて外気を取り込んだり吐き出したりしているわけではありません。
肺の周囲にある呼吸筋、具体的には胸部にある外肋間筋・内肋間筋・横隔膜や腹部にある外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋等が動くことで、肺が広がったり縮んだりして呼吸ができるようになるのです。
こうした呼吸筋を鍛えることにより、呼吸筋が大きく強く動くことができるようになるのです。
例えば、肺に空気が入るときには、横隔膜が下がり、肋間筋が外に広がることで、胸郭と呼ばれる肺のある胸のあたりの空間が広がります。そうすると胸郭の中にある空気の気圧が、外気と比べれて下がることになります。空気は気圧の高いところから低いところへ流れるようになっているため、胸郭の中の気圧が低くなると、鼻や口を通して肺に外気が入ってくるようになります。
逆に、空気を吐き出すときには、腹斜筋が動いてお腹のあたりの空間を狭くします。同時に横隔膜が上に上がり、胸郭の空間も狭くなります。お腹のあたりと胸郭が狭くなると、この空間に入っていた空気の圧力が高くなります。その結果、空気は気圧の高い肺の中から気圧の低い外気へと排出されるのです。
このように、呼吸筋が肺の動きをコントロールしているわけですが、こうした呼吸筋を鍛えることにより、その結果呼吸筋の動きが活発になります。
②筋肉が正しく動くことにより、姿勢が良くなる。
すでに述べたように、実は呼吸は上半身全体の筋肉を使う行為なのです。そのため、呼吸筋を鍛えて上手に使えるようになると、上半身の筋肉を常に鍛えていることになり、まず筋力が付きます。
上半身に筋肉がつくと、体の姿勢が良くなり、背筋が伸びて姿勢が良くなります。姿勢が良くなって、胸が大きく張った状態で歩けるようになると、胸が開いてより一層呼吸しやすくなります。
特に腹部にある呼吸筋の外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋は、腹筋運動をすると必ず鍛えることになる筋肉で、特に「シックスパック」を作りたい人は念入りにトレーニングする必要のある筋肉です。
呼吸筋を鍛えると、ほぼ自動的にこの外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋を鍛えることになります。すると、上半身に筋肉がついて、体の姿勢が良くなり、背筋が伸びて姿勢が良くなります。
姿勢が良くなると、胸が大きく張った状態で歩けるようになり、呼吸筋が一層大きく動くことになります。そして呼吸筋が一層大きく動くようになると、また姿勢が一段と良くなります。
つまり、呼吸筋を鍛えることで体幹を支える大きな上半身の大きな筋肉が鍛えられることになります。その結果姿勢が良くなるのです。このように呼吸筋を鍛えることと姿勢を良くすることは、つよい相互関係があるのです。
姿勢が良くなると、まず見た目がスッキリしますし、実際にスリムになる人も少なくありません。こうしたことから、呼吸筋を鍛えると、ダイエットに効くと言われるのです。
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③体の中の酸素量が増える。
呼吸筋を鍛えると、多くの場合肺活量が増えます。肺活量が増えると、より多くの酸素を体の中に取り入れることができるようになります。
そして、体の中の酸素量が増えると、同時に脳へ行き渡る酸素量も増えます。その結果脳の働きや精神状態にまで変化が現れる場合があります。
例えば、体の中の酸素が増えると、冷え性などが解消されたり、肩こりが解消する人もいます。また、脳に酸素が十分行き渡るようになると頭痛が解消される人もいますし、集中力が増加する人もいます。
このように呼吸筋を鍛えることにより、様々な良い影響が体に現れると考えられます。
しかしその一方で、もしも呼吸筋が何らかの要因でその筋力を失うと、上記のような効果がなくなり、心身に悪影響を与えるということになります。
このような理由から見ても、呼吸筋を鍛えておくことが心身の健康にプラスとなることがわかりますね。
呼吸筋を鍛えると、日常生活はこう変わる
呼吸筋を鍛えることにより、体や脳によい影響を与えるであろうことは、前の章でご理解いただけたかと思います。
では、呼吸筋を鍛えた人あるいは鍛えている人は、日常生活がどのように変わる可能性があるのでしょうか。具体的な変化としては、次の3つのことが起こる可能性があります。
①スタイルが良くなる、あるいはスタイルが良いと思われるようになる。
前の章で述べたとおり、呼吸というのは上半身全体の筋肉を使う行為です。そのため、呼吸筋を鍛えると上半身の筋肉を24時間鍛えているような状態になります。その結果上半身全体の筋肉強化され、姿勢が良くなります。
その結果立ち姿や歩く姿が美しくなり、スタイルが良くなったような印象を与えることができるようになります。実はこうしたとき、意外と体重自体は大きく変化していないことのほうが多いのですが、筋肉が正しい形で体についた結果、いわゆる「しゅっとした」体型のように見えることがあります。
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②体が疲れにくくなる。
呼吸筋を鍛えて体の中の酸素量が増えると、脳や体の隅々に酸素が行き渡るようになります。そのため、いわゆる持久力がつくため、長い距離を歩いたり走ったりしても体が疲れにくくなります。
日常生活では階段の上り下りや坂道を登るときなどに息が切れて苦しい思いをすることが減ってきます。そのため、今まで以上に長い時間活動し続けることが可能になり、体力がついたことを実感できるようになるでしょう。
③集中力が増し、気持ちが安定しやすくなる。
呼吸筋を鍛えると、体だけではなく脳にもより多くの酸素が行き渡るようになります。そうすると、集中力が向上し、仕事や勉強を効率的に行うことができるようになります。
また、脳へ酸素が十分に供給されるようになると、通称幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌が増えて精神的に安定し、不安を感じにくくなります。また、脳にも酸素が十分に行き渡ると頭痛が軽減する可能性もあります。
酸素が欠乏すると脳内の血管がひろがり、周囲の三叉神経などが刺激されます。その結果、酸欠による頭痛に苦しむ人が多いのです。しかし、酸欠が解消されると頭痛もなくなり、大きな心身のストレスが一つ減るということになります。
呼吸筋を鍛えると、スポーツをする人はこう変わる
呼吸筋を鍛えることは、日常生活において様々なメリットをもたらします。しかし、同時に、呼吸筋を鍛えることは、スポーツを日常的に行っている人、あるいはプロのスポーツ選手にも様々なメリットがあると考えられます。
では、呼吸筋を鍛えて、体内により多くの酸素を取り入れることができるようになると、具体的にどのようなメリットがスポーツをするときに見られるのでしょうか。
次の3つの可能性を検証します。
① 持久系のスポーツをより長く楽しめるようになる
まず、最初に体内に酸素をより多く取り入れられるようになると、マラソンやジョギング、自転車や水泳などの持久系のスポーツにおいては、大きなアドバンテージとなります。
呼吸筋を鍛えることで持久力が向上するため、より長い距離(あるいはより長い時間)走ったり泳いだりすることができるようになります。また、走ったり泳いだりしているときに、スピードを上げてもそのスピードをより長い時間維持できるようになります。
その結果、マラソンや自転車・水泳などのレースで上位に入ることができるようになります。そうすると、レースをすることが非常に楽しくなることでしょう。
また、呼吸筋を鍛えると、酸素が体に行き渡るようになるため持久力を回復する能力も早くなります。そのため、トレーニングや試合が続いても疲れにくくなるという隠れた効果もあります。
② ゲームやレース中の集中力や判断力が持続するようになる
スポーツをしているときというのは、体だけでなく、脳も意外と酷使しているものです。
レースやゲーム中に刻々と変わる状況に対応するためには、脳へも酸素が行き渡らる必要があります。逆にいうと、心身が酸欠状態でプレーしているときというのは、プレー自体の正確さも失われやすく、ゲーム中の判断も間違えやすいということになります。また、酸素が不足すると集中力も途切れがちになります。
しかし、呼吸筋を鍛えることで酸素が体や脳に十分に行き渡るようになると、まず、持久力がついくため、プレー中に体力がなくて苦しくなることが少なくなります。そうなると、頭を使って考えることも体力的に余裕を持ってできるようになります。その結果ゲームやレース中の判断が的確にできるようになり、集中力もゲームが終わるまで維持できるようになるので、勝利の確率が上がります。
脳をしっかりと動かし、適切な判断をするためにも、呼吸筋を鍛えることは有効なのです。
③ 怪我等でプレーできないときでも、最低限の筋トレができるようなる
本格的にスポーツをしている人は、様々な怪我に悩まされがちです。特にプロのスポーツ選手は華やかな活躍の裏で、様々な怪我や古傷に悩んでいたりするものです。
スポーツ選手はいったん怪我をすると、治療し回復したあとのリハビリ期間を経て、スポーツの場に復帰することになります。この治療期間、大きな怪我であるほど体を休める時間が長く休むことが必要になりますし、勝負の世界に復帰するまでに長い時間がかかってしまうことになります。
しかし、最大の問題は、この回復期間に怪我をした場所以外の筋肉は弱くなってしまう可能性があり、呼吸筋もその例外ではないということです。もしも、呼吸筋が弱くなると心肺機能が低下し、持久力も減退してしまいます。そして、他の筋肉と同様、呼吸筋も怪我をする前のレベルに戻るには時間がかかってしまうことがほとんどです。
幸い、呼吸筋を鍛えるトレーニングはベットに横になったままでもできるものも多く、体の他の筋肉に負担をかけずに呼吸筋を鍛えることができます。その結果、怪我から回復したあと、ゲームやレースの場に復帰するのが早くなるのです。
もちろん、何らかの原因で開腹手術などをしたときには、すぐには呼吸筋トレーニングを開始することは難しいかもしれません。しかし、手や足の怪我などの場合は、治療が始まると同じくらいのタイミングで呼吸筋トレーニングを始めると、体幹の筋力が落ちるのが最小限で済みますし、持久力が低下するのも最小限で抑えることができます。
こうした意味でも、怪我をした後の回復期間に呼吸筋筋トレを取り入れることは強くおすすめです。
呼吸筋はこうやって鍛える!
呼吸筋を鍛えることにより、様々なメリットが心身に現れる可能性があることを、今まで述べてきました。とはいえ、この呼吸筋を鍛えるには、どのようにするとよいのでしょうか。また、呼吸筋をきたえる方法など、本当にあるのでしょうか。
そんな疑問を持つ人のために、ここでは呼吸筋をきたえる方法として、次の3種類の方法をご紹介いたします。
呼吸筋のマッサージでリラックス【呼吸筋マッサージ】
呼吸筋は24時間、人間が寝ているときも起きているときも、休みなく動き続けている筋肉です。そのため、呼吸筋はとても疲労していたとしても、不思議ではありません。
その呼吸筋を疲労を取り除くため、まず呼吸筋のマッサージから初めてみましょう。
まず、最初に肋骨のあたりを手のひらでさすってみましょう。できれば肋骨の間も指を入れて少しマッサージしてみましょう。でも、肋骨の間に指を入れるときは思い切り強く押すことは避けたほうが良いでしょう。一歩間違えると、肋骨やその軟骨を痛めてしまう可能性もあります。できるだけ軽く、ソフトにマッサージしてあげましょう。
その後は、肋骨の一番下に両手の指先を入れて、マッサージしてみましょう。肋骨の下には横隔膜があるので、この部分をマッサージするとちょっと痛みを感じるかもしれません。そのときには、指先に入れる力を少し軽くして、マッサージしましょう。
次は、鎖骨のから首のあたりを手のひらでさすってみましょう。実は鎖骨には頭から胸鎖乳突筋という筋肉がついていて、呼吸するときに鎖骨が上に上がることで、胸郭が広がります。そのため、この部分の呼吸筋も疲労していることも多いのです。
また、マッサージの代わりに、肋骨のあたりから首までの範囲を温めておくこともおすすめです。例えば、夏は外はとても暑くても、建物の中に入ると急激にクーラーの冷房が効いていたりします。そのため、建物の中では体が冷え込み、血行が悪くなり、そこから呼吸筋が呼吸筋が凝り固まってしまうこともありえます。
夏でも羽織るもの、できればトレーナーやパーカーなど体の前側もすっぽり覆うことができる服を屋内で着ておくことも、呼吸筋のためにはよいことと言えるでしょう。
ストレッチで呼吸筋のコリをほぐす【呼吸筋ストレッチ】
呼吸筋をマッサージしたら、今度はその呼吸筋をストレッチしてみましょう。ストレッチすると血行が良くなり、呼吸筋の疲労が取れやすくなります。また、呼吸筋のストレッチもけして難しいポーズはありません。どこかで見たことのあるストレッチのポーズばかりです。
例えば、手のひらを胸の前で組んで、ゆっくりと呼吸します。その後息を吐くときに組んだ手のひらを体の前にだして、そのままの状態で3回ぐらい呼吸します。
今度は、手のひらを腰の後ろで組んで、そのままの状態で背中の上の方に持っていき、そのままの状態で、また3回くらい呼吸します。
こうした呼吸筋のストレッチをすることで体が暖かくなりますし、深呼吸が楽にできるようになりますよ。
呼吸筋筋トレには専用器具を使ってもOK【呼吸筋筋トレ】
マッサージとストレッチだけでも呼吸が楽になるになるのを実感する人もいるかも知れません。とはいえ、もう少し本格的に呼吸筋を鍛えたい人は、マッサージとストレッチをしてから、呼吸筋の筋トレを始めましょう。
腹筋、特に外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋等を使って息を吐き出すドローインは、呼吸筋の筋トレとしても非常によく効くトレーニングです。
【エクササイズ初心者でもできる!】インナーマッスルの鍛え方を成田医師が徹底解説
また、呼吸を鍛えることで直接呼吸筋を鍛えるのも、1つの方法です。そのためにもエアロフィットのような器具を使ってみるのもよいでしょう。
呼吸筋を鍛えて、日常生活を快適に
呼吸をつかさどる呼吸筋は、目に見えやすい筋肉ではありません。しかし、多くの筋肉が連動しているため、少し意識して日常生活を送ると、意外と鍛えやすい筋肉でもあるのです。呼吸筋を鍛えることにより、日常生活でも体が動かすことが苦にならなくなったり、疲れにくくなったりする可能性があります。
また集中力が向上したり、精神的に安定したりする効果も期待できます。ぜひ、呼吸筋を鍛えて、日常生活をより快適にすごすために、ぜひ呼吸筋を鍛えてみましょう。
呼吸筋における具体的なトレーニング方法はこちら記事で紹介しているので、参考にしてみてください。