筋トレなど運動を行う際には「息を止めてはいけない」という話をよく耳にします。その一方で、水泳やフリーダイビングの選手、そのほかのアスリートなど、わざと「息を止める」トレーニングを行う人もいます。
そこで今回は、息を止めるトレーニングによる効果を解説します。また、呼吸のし過ぎがよくないといわれている理由や筋トレ時の呼吸法についても触れていますので、呼吸法をトレーニングに生かしたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
「息を止めるトレーニング」には効果があります!
トレーニングといっても「息を止めるだけで、本当に効果があるの?」と思われる方も多いのではないでしょうか。ここでは、息を止めるトレーニングによってどのような効果があるのか、お伝えします。
持久力が上がる
息を止めるトレーニングを行うことは、心肺機能に負担をかけ、適度な刺激を与えることができるので、心肺機能を高めることが期待できます。
そもそも心肺機能とは、全身へ酸素を運び、いらなくなった二酸化炭素を体外へ排出するためのはたらきのこと。心肺機能がアップし、酸素の運搬や二酸化炭素の排出がスムーズに行われると、持久力がアップするなどの変化を感じられます。
疲れにくくなる
息を止めるトレーニングを行うと、一時的に身体は酸素不足の状態になります。そこで身体は、酸素を運ぶ能力を改善しようとするため、疲れにくい身体づくりにもつながります。
免疫力を高める
先に述べたように、息を止めるトレーニングを行うと心肺機能の向上が期待できます。心肺機能がアップすると、全身の血液循環がよくなるため基礎体温が上がり、免疫力を高めてくれるのです。
息を止めるトレーニングをやってみよう!
息を止めるトレーニングの正しい方法
リラックスした状態で、大きく息を吸い込み限界まで吸ったら、10秒ほど息を止めます。次に、吸い込んだ息をゆっくり吐き出しましょう。すべて吐き切ったら、再び大きく息を吸い込みます。この動作を数回繰り返します。
慣れてきたら徐々に、回数や、止める時間を増やしてみましょう。
息を止めるトレーニングのほかにも、肺活量を増やすトレーニングについて下記の記事でくわしく解説していますので、合わせてご覧ください。
【医師が解説!】肺活量を鍛える方法!肺活量エクササイズと注意点
ただし無理は禁物
息を止めることで酸欠状態に陥り、気分が悪くなったり、頭がクラクラしてしまったりする場合があります。少しでも身体に異変を感じた場合は、トレーニングを中止し、楽な姿勢で安静にしましょう。くれぐれも無理をしてはいけません。
呼吸のし過ぎもよくない理由
ただ闇雲に呼吸をすればいいというわけではなく、場合によっては、身体に悪影響を及ぼす呼吸もあります。
そこで、ここではどのような呼吸が身体に悪影響を及ぼすのか、「呼吸のし過ぎもよくない」といわれている理由などについても解説します。
呼吸をし過ぎている状態
ここでいう「呼吸をし過ぎている状態」とは浅く速い呼吸で、回数が多い状態を指します。呼吸の回数が多いと、酸素を吸い過ぎると同時に、二酸化炭素を吐き出し過ぎてしまいます。
二酸化炭素は体外に排出されるため、身体にとって「不要なもの」と認識されがちですが、体内に酸素を吸収するためには二酸化炭素の存在も必要です。そのため、二酸化炭素を吐き出し過ぎてしまうと、その分少ない酸素しか身体に吸収されません。
結果として、呼吸をし過ぎていると、酸素と二酸化炭素とのバランスが崩れ、いくら酸素を吸い込んでいても「酸欠状態」になってしまうのです。
浅く速い呼吸が身体にもたらす影響
呼吸をし過ぎている状態では、酸素が不足し、免疫力の低下を招きます。これは、酸素不足によって免疫細胞のはたらきが弱まり、免疫機能全体が弱体化してしまうためです。
また、呼吸と自律神経は、密接に関係しています。腹式呼吸などの深い呼吸は、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせます。一方で、呼吸をし過ぎている状態では、心身を興奮させる交感神経が優位になり、強制的に興奮状態になってしまいます。
交感神経が優位な状態が続くと、ホルモンバランスが乱れたり、気分の浮き沈みや睡眠障害などを引き起こしたりする可能性があります。
「吐くこと」に着目しよう
多くの人は、深呼吸をするときに息を「吸うこと」に着目しがちですが、実は息を「吐くこと」の方が大切です。
息を吐き切った時点で、息を吸うことは自然な呼吸に任せ、吸った時間の倍の時間をかけて吐くことを意識しましょう。
筋トレと呼吸の関係
健康や身体づくりのために筋トレを取り入れている方も多いのではないでしょうか。ここでは筋トレの効果を左右する、筋トレ時の呼吸方法についてお伝えします。
筋トレ時に息を止めているのはNG?
筋トレを行う際、体に力を入れようとすると無意識に息を止めてしまいがちです。しかし、息を止めた状態でトレーニングをすると身体に酸素が入りにくくなり、力も出にくくなってしまいます。
また、息を止めた状態でトレーニングを続けると、血圧が上昇し、心臓や血管に負担がかかって失神してしまう場合もあるので、十分気をつけましょう。
筋トレ時の呼吸法【胸式呼吸】
呼吸法には大きく分けて「胸式呼吸」と「腹式呼吸」の2種類がありますが、筋トレには「胸式呼吸」がおすすめです。
胸式呼吸は、息を吸ったときに肋骨や胸が大きく膨らみ、吐くとき広げた肋骨を閉じる感覚でゆっくりと口から息を吐きます。筋トレを行う際には、力を入れるときに息を吐き、力を抜くときに息を吸うことを意識しましょう。
胸式呼吸が筋トレに向いている理由は、自律神経をつかさどる交感神経と副交感神経のうち、身体を活発にする交感神経のはたらきを高めることができるためです。
自律神経のバランスを整える呼吸法についてはこちらの記事でもくわしくご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
呼吸方法を変えて自律神経バランスを整えよう!【医師が詳しく解説!】
息を止める「バルサルバ法」は上級者向け
筋トレのなかでも重量を持ち上げるトレーニングなどのとき、一瞬だけ息を止めて大きな力を出す「バルサルバ法」と呼ばれる方法があります。
ただし、バルサルバ法は急激に血圧が上昇し、身体や心臓に負担がかかりやすくなるため、高重量を用いるトレーニングなど上級者向けの呼吸法です。
そのため、筋トレ初心者や通常のトレーニングであれば、基本的には呼吸を止めずに、胸式呼吸を意識しトレーニングを行いましょう。
シーンに応じた呼吸を実践しよう
息を止めるトレーニングは場所を問わず、短い時間で気軽に行うことができますので、思い出した時にチャレンジしてみてくださいね。息を止めるトレーニングを行うことによって、呼吸筋が鍛えられ、心肺機能の向上などが期待できます。
呼吸筋を鍛えるためのトレーニング方法については、下記の記事でもくわしく触れていますので、参考にしてみてください。
呼吸筋を鍛えるためのトレーニング方法はどのようなものか?呼吸筋を鍛えるために、何か器具は必要?
ただし、筋トレ時に息を止めてしまうと、トレーニング効果が出づらくなるだけでなく、酸欠によって頭が痛くなるなど不調を招く恐れがありますので注意が必要です。
せっかくトレーニングをするのであれば、シーンに応じた正しい呼吸法を身につけて、安全に、そして効果的にトレーニングを進めていきましょう。