東京オリンピック・パラリンピックでの日本人選手の活躍が記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。トップアスリートたちの運動量を根本から支えているのが「肺活量」です。
トップアスリートと一般人の肺活量の平均にはどのくらい違いがあるのでしょうか。また、肺活量を増やす方法についても呼吸筋との関連性とともにご紹介します。
肺活量の基礎知識
「肺活量」はよく聞く言葉ですが、意外とその正体をはっきり理解している人は少ないかもしれません。ここでは、肺活量が指し示す身体の機能や肺活量の測定方法について解説します。
●肺活量とは
肺活量とは、安静時の呼吸状態でできるだけ深く空気を吸い込んだ後、力いっぱい努力して吐き出した空気の量を測定したものです。肺活量は英名がVital Capacityと呼ばれるほど、私たちの身体にとって重要な能力でもあります。
肺活量は、肺が出し入れすることのできる空気の最大量であるため、肺や呼吸機能が正常かどうか知ることのできる数値でもあります。こちらの記事では、肺活量についてさらにくわしい内容や、肺の健康を知る上で重要な「肺年齢」についてもお伝えしていますので、ぜひチェックしてみてください。
●肺活量の測定方法
肺活量の測定方法に、病院で行うことのできる肺機能検査があります。肺機能検査とは別名、呼吸機能検査ともいい、空気を吐く量や吸う量、スピードなどを調べるものです。
一般に肺機能検査は、スパイロメーターという計測器を使って調べます。まず鼻をクリップでとめて、鼻から空気が漏れないようにします。そして、スパイロメーターのマウスピースを装着します。そのまま通常の呼吸を数回繰り返した後、思いっきり吸ったり吐いたりして肺活量や1秒間にどの程度空気を吐き出せるかなどを計測していきます。
肺機能検査では、呼吸機能に異常がないか指し示す、以下のようなさまざま数値を調べることができます。
- 肺活量
- %肺活量
- 努力性肺活量
- 1秒量
- 1秒率
また、肺の健康状態を知る上で「肺年齢」という言葉があります。肺年齢は、肺の老化を年齢におきかえて示す目安です。実年齢と肺年齢を比較することによって自身の肺の健康状態を知ることができます。
肺活量は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の早期発見を目指し、人間ドックでも測るよう推奨されはじめています。まずは肺活量を定期的に測定すること、自分の肺年齢を知ることが大切です。肺活量は健康診断や人間ドッグなどでも測定することができます。
● 肺活量と呼吸筋の関係
深い呼吸をするうえで重要になってくるのが、「呼吸筋」です。
口や鼻から吸い込んだ空気は、気管を通って肺に送られます。しかし、肺には筋肉がないので、自分の力で空気を吸い込んだり、吐いたりすることができません。私たちが呼吸するとき、肋骨の間にある筋肉や横隔膜を動かすことによって、肺の中の空気を出し入れしています。これらの筋肉が「呼吸筋」と呼ばれるものです。
特に横隔膜は呼吸活動の7割以上を担っているといわれています。横隔膜が縮んで下がると、胸腔が膨らみ、肺の中に空気が入って息を吸うことができます。反対に横隔膜が伸びて上がると胸腔はしぼみ、肺の中の空気が出て息を吐くことができます。そのため、横隔膜などの呼吸筋を鍛えることで肺活量が高まり、身体機能も向上するといわれています。
肺活量の平均
肺活量は、スポーツ選手や激しい運動を日頃から行なっている人と、それ以外の人で大きく差が出ます。そのため、今回は肺活量の基準となる目安について、一般の人の場合と、アスリートの場合に分けてそれぞれ見ていきます。
● 一般の人の場合【肺活量の平均:約3,000ml】
肺活量の基準の目安は、健康的な成人の男性で3,000〜4,000ml、成人の女性で2,000〜3,000ml程度といわれています。しかし、年齢、性別、身長などによって基準値は異なります。
また、運動習慣がない人に比べて、運動習慣がある人は肺活量が多い傾向にあります。これは、運動によって、全身の筋肉、つまり肺の動きを支える筋肉である呼吸筋を含む筋肉が鍛えられて呼吸機能が向上し、肺活量も増大している可能性があるためです。
● アスリートの場合【肺活量の平均:約8,000ml】
トップアスリートの場合、肺活量は6,000〜10,000ml以上にも達するといわれています。
例えば、2020年の東京オリンピックの競泳競技で5冠を達成したアメリカ代表 ケレブ・ドレセル選手の肺活量は、およそ8,500mlといわれています。ケレブ・ドレセル選手といえば、疲れの出るレース終盤における無呼吸泳法が大きな武器です。
また、一般的に、同じ水中競技でも、競泳選手よりアーティスティックスイミングの選手の方が、肺活量は高いといわれています。これは、アーティスティックスイミングの選手の方が、大きく息を吸う時間、そして、水中で呼吸を止めている時間が長いためであるといわれています。
● 肺活量は20代半ばをピークに年齢とともに減少
一般的に、何も対策を打たなければ、肺活量は20歳代をピークに年齢とともに自然と低下するといわれています。これは、老化とともに全身の筋力が低下し、呼吸機能を支える横隔膜や肋間筋などの呼吸筋も衰えるためです。
また長期間にわたる喫煙も、呼吸機能の低下を早める要因となります。これは、喫煙により、気道や気管支などの空気の通り道が狭くなり、空気が通りにくい状態に陥るためです。
心肺機能が低下すると「疲れやすい」「辛い」「長く歩けない」などの理由から不活動な生活につながります。不活動な生活が続くと、さらなる肺活量の低下や心肺機能の低下が見られるという悪循環に陥る可能性があるのです。
そのため、自身の体調に合わせた適度な運動や栄養バランスのとれた食事を心がけ、筋力を維持、向上することが大切です。
肺活量を増やすメリット
肺活量が増えると、それだけより多くの酸素を体内に取り込むことができます。多くの酸素を体内に取り込むことができることで、下記のようなメリットが考えられます。
- 疲れにくくなる
- 痩せやすく太りにくい体質に
- 精神的に安定する
- 集中力がアップする
以上の4つのメリットについてくわしく見ていましょう。
● 疲れにくくなる
肺活量が増えることで、持久力のアップし、疲れにくくなるといわれています。持久力とは、身体を長時間にわたり動かし続けられる力のことで「スタミナがある」といわれる状態のこと。
私たちの身体は、呼吸を行うことで酸素を取り込み、運動に必要なエネルギーを作り出しています。肺活量を高め、より多くの酸素を身体に取り込むことができるようになればなるほど、疲れにくくなります。運動強度の高いスポーツを長時間行うことができるようになるでしょう。
● 痩せやすく太りにくい身体に
肺活量が増え、酸素を体内に多く取り込めるようになると、基礎代謝が高まります。基礎代謝とは、人間の身体のさまざまな機能を維持するために、座っている間や寝ている間にも常に消費されているカロリーのこと。基礎代謝が高くなることで、痩せやすく太りにくい身体になります。
また、肺活量を鍛えて持久力がアップすると、ダイエット効果の高い有酸素運動をある程度の時間、継続して行うことができます。さらに、運動により筋肉量が増えると、さらなる基礎代謝の向上が期待でき、よい循環が生まれるといえます。
● 精神的に安定する
緊張した場面や、不安を感じるとき、深呼吸すると気持ちが落ち着いた、心拍が落ち着いたという経験はないでしょうか。深い呼吸では呼吸筋の一つである横隔膜が活発にはたらきます。この横隔膜には自律神経が集中しているため、肺活量を鍛えることで自律神経を刺激し、リラックスしている状態に。深い呼吸では気持ちが安定し、精神的な緊張を和らげてくれるのです。
● 集中力がアップ
肺活量を鍛え、肺をしっかり膨らませた深い呼吸ができるようになると、集中力がアップします。肺活量が増えれば一度の呼吸で効率よく酸素が取り込めるため、血液中の酸素濃度を高め集中力をキープすることができます。
また、先述したように肺活量を鍛えることで自律神経を刺激し、リラックスしている状態に。このリラックスにより、集中力を回復させることができるのです。
肺活量を増やしたいなら呼吸筋に着目しよう
肺活量を増やすにはどのような方法があるのでしょうか。ここでは運動編、食事編という2つの軸から肺活量を増やす方法をご紹介します。
● 運動編:水泳
肺活量を増やす運動として代表的なものに、水泳や水中でのトレーニングがあります。
水中では身体に水圧がかかります。水泳は水圧で肺が押さえられている状態で瞬時に息継ぎをしなくてはならないため、肺活量を鍛えることができるトレーニングのひとつといわれています。
それだけではありません。水泳は全身運動であるため、全身の筋肉量を増やせるといったメリットもあります。水中では、泳ぐだけでなくプールの中を歩いたり、ジャンプをしたりするような単純な動作でも相当な負荷が身体にかかるため、全身の筋力向上が期待できます。
さらに、プールでは水に浸かっているだけでどんどん体温が奪われますが、それに対して身体は体温を維持しようとします。体温を上げるために、身体はエネルギーを消費するので、陸上で運動したときよりもより多くのエネルギーを消費します。
このように、水泳や水中でのトレーニングは、ランニングとは違って足や腰を痛めにくく、短時間で効率的に運動の効果が出せるといったメリットがあります。
ただし、運動を行えば水分は放出し水分不足になりますので、水中のトレーニングだからといって油断せず、こまめな水分補給を心がけましょう。
肺活量と運動の関係については、こちらの記事でよりくわしく解説していますので、合わせてご覧ください。
● 運動編:ランニング
肺活量を増やす運動として水泳と並んでおすすめなのが、ランニングです。ランニングは比較的長時間にわたってエネルギーを消費するため、多くの酸素が必要になります。体内に多くの酸素を取り込もうとすると呼吸筋が活発に働くため、肺活量の向上が期待できます。
またランニングは有酸素運動であるため、基礎代謝アップや体脂肪燃焼にもつながります。しかし、運動に慣れていない人がはじめから長い距離を走るとけがの原因にもなりますので、短距離からはじめて徐々に距離や時間を増やすという方法がおすすめです。
● 食事編:タンパク質をしっかり摂取しよう
肺活量の増加を考えるなら、バランスのいい食事は欠かせません。なぜなら栄養不足による筋力の低下は、呼吸機能の低下につながりやすいためです。
筋肉を作るのに大切な栄養素がタンパク質です。なかでも、体内で作り出すことのできない9種類の必須アミノ酸がバランスよく含まれたタンパク質を「良質なタンパク質」といいます。良質なタンパク質は、かつお、まぐろ、アジなどの魚介類、牛肉、豚肉などの肉類のほか、卵、豆腐、チーズ、牛乳などにも含まれています。
季節の野菜や果物と組み合わせながらタンパク質をしっかり補給して、筋肉量を維持するように心がけましょう。また、規則正しい生活で十分な睡眠を取ることも大切です。
● 呼吸筋トレーニングデバイス「エアロフィット」もおすすめ
呼吸筋や呼吸補助筋をきたえるためにおすすめのグッズが、北欧、デンマーク発呼吸筋トレーニングデバイス「エアロフィット」です。
エアロフィットは、いわば呼吸筋の「ダンベル」。デバイスを口にくわえて1日5~10分「吸う・吐く・止める」の動作を繰り返すだけで、呼吸筋に負荷をかけ効率よくきたえることができます。横隔膜などの呼吸筋をしっかり鍛えることで、肺機能の向上が期待できます。
6段階の抵抗ホイールが備わっており、個人に応じて負荷が調整できることもうれしいポイント。
エアロフィットを使ったトレーニングは1日5~10分程度で、ご自宅でテレビを見ながらなど、好きなときに好きな場所行うことができます。また、呼吸筋トレーニングのカギは「継続」できること。エアロフィット専用アプリでは、バーチャル呼吸トレーニングコーチとして、強化するトレーニング領域と肺機能測定にもとづき、パーソナライズされたトレーニングプログラムを提供しています。
「わざわざ呼吸筋のトレーニングに割く時間がない」という人も、エアロフィットであれば、すきま時間を活用してトレーニングを行うことができるのでおすすめです。
肺活量を鍛えるときは、ふだんのトレーニングと違って、強く空気を吸ったり吐いたりすることが多いため、酸欠状態になりやすいものです。そのため、ハードなトレーニングを長時間行なわないなど、決して無理はしないようにしましょう。
たとえ、トレーニングは1回あたりが短い時間であっても、正しい方法で日々継続していけば、徐々にトレーニング時間を延ばせるようになるなど結果が目に見えて出てくるでしょう。すぐに結果が出なくても焦らず、続けることが大切です。
肺活量を増やすことは健康維持にもつながる
肺活量と呼吸筋は密接に関係しています。そのため、タンパク質をしっかり摂る食事を意識しながら水泳などの運動を組み合わせて呼吸筋を鍛えていくことは、肺活量の増加につながります。
トップアスリートのように多くの肺活量を必要とする場面は少ないかもしれませんが、健康維持の観点からも肺活量を増やし、息切れしにくい体作りは大切といえます。