現代のストレス社会では、新型コロナウイルス感染症の流行などにより、よりいっそうストレスを感じやすい状態が続いています。加えて、マスクの着用が日常となった今、呼吸は浅くなりがち。このことにより身体が「隠れ酸欠状態」を引き起こしているともいわれています。
そこで再び注目を集めているのが、呼吸を深くすることのできる腹式呼吸です。今回は腹式呼吸で得られるメリットや、腹式呼吸を行うときのコツをご紹介します。
腹式呼吸と胸式呼吸
私たちは普段、無意識に呼吸を繰り返していますが、代表的な呼吸方法に腹式呼吸と胸式呼吸の2種類があります。それぞれの特徴や違いについて見ていきましょう。
出典:超簡単な腹式呼吸のやり方。誰でも出来てボイトレに役立つ! | ボイトレブログ ~ボイストレーナーAKIRA公式Blog~
腹式呼吸とは
腹式呼吸は、横隔膜を大きく動かし、お腹の動きが目立つ呼吸です。腹式呼吸では多くの空気を身体に取り込むことができるため、呼吸を深めたいときにはおすすめの呼吸です。また、睡眠時の呼吸もこの腹式呼吸であるといわれています。
ただし、腹式呼吸を闇雲に行ったらいいかというとそうではありません。こちらの記事では腹式呼吸のやりすぎがよくないと言われる理由や、適切な目安についても解説していますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
【腹式呼吸のやりすぎもよくない?】その理由や完全呼吸による対策方法もご紹介
胸式呼吸とは
胸式呼吸とは、主に肋骨と肋骨の間の筋肉を使って、胸の動きが目立つ呼吸です。胸式呼吸は比較的浅い呼吸といわれています。そして、私たちが日常生活の中で無意識に行っている自然呼吸は、この胸式呼吸であるといわれています。
胸式呼吸も腹式呼吸もどちらか一方が大切であるというわけではなく、それぞれ人間が生きていくうえでは必要な呼吸なのです。
腹式呼吸のメリット
多くの空気を身体に取り込むことができる腹式呼吸を行うことで、私たちの身体にさまざまなメリットをもたらします。ここでは代表的な以下のメリットをご紹介します。
- 気持ちが安定してストレスが軽減する
- 集中力が高まる
- 基礎代謝のアップ
- 免疫力のアップ
- お腹まわりが引き締まる
- 冷え性の改善
- 胃腸のはたらきを促す
- 姿勢が良くなる
- 歌声が安定する
それぞれのメリットについてくわしく見ていきましょう。
● 気持ちが安定してストレスが軽減する
前述のように、腹式呼吸では横隔膜が活発に動きます。この横隔膜には、自律神経がたくさん集まっているため、横隔膜を動かすことで自律神経である副交感神経に直接刺激を与えることができます。
副交感神経は睡眠のときやリラックスしているときにはたらきます。そのため、腹式呼吸を行うことによって、気持ち安定し、ストレスが軽減するといわれています。ストレスを感じやすい人や、多忙な人、なかなか疲れが抜けない人などに腹式呼吸はおすすめです。
● 集中力が高まる
呼吸に意識を集中することによって、外部のことに余計な気が散ってしまうのを防ぐことができます。また、深い呼吸によって脳にも酸素がたっぷり行き渡り、頭がスッキリし、集中力も高まるでしょう。
● 基礎代謝のアップ
腹式呼吸を行うことによって、基礎代謝がアップするといわれています。基礎礎代謝とは、体温を上げたり呼吸をしたり、心臓を動かすなど、生命を維持するために必要なエネルギーのこと。
腹式呼吸を行うことで、脂肪燃焼に必要な酸素を体内に多く取り込むことができます。さらに、血液が全身に巡りやすい状態となって基礎代謝がアップすると、運動をしていないときでも多くのエネルギーが消費されるようになり、太りにくい身体になります。
● 免疫力のアップ
腹式呼吸によって身体に取り込める酸素の量が増えると、身体が温まって血流が促進されます。そして血液に含まれる免疫細胞が活性化されることで、免疫力アップにつながります。新型コロナウイルス感染症の拡大で「免疫力」に再び注目が集まる中、腹式呼吸は有効な手段といえます。
● お腹まわりが引き締まる
腹圧が低い状態だと、内臓が本来あるべき位置より下がってしまい、ポッコリお腹の原因となります。腹圧を高めることで内臓が正しい位置に戻るのを助けてくれます。それだけでなく、腹部の筋肉も鍛えられ、お腹まわりが引き締まるでしょう。
● 冷え性の改善
冷え性の主な原因は血行が悪くなること。腹式呼吸を行うことによって一度の呼吸で取り込める酸素の量が増え、体のすみずみまで血液が届きやすくなります。そのため、血行不良による冷え性の改善にも効果が期待できます。
● 胃腸のはたらきを促す
腹式呼吸を行って横隔膜を大きく動かすことで、腹部の内蔵を刺激し、胃や腸のはたらきを活発にすることができます。また、お腹を膨らませたりへこませたりする腹式呼吸では、腹筋が鍛えられ、お腹まわりが引き締まります。
● 姿勢が良くなる
腹式呼吸を行うと横隔膜や腹筋が活発に動きます。このとき、横隔膜や腹筋が鍛えられるます。これらの筋肉の強化は腹圧を高めるため、身体の軸が安定し自然と姿勢が良くなります。正しい姿勢が保てるようになると、腰痛や肩こりの改善にもつながるというう、れしい効果も期待できます。
そもそも、猫背や前屈みの状態では腹式呼吸をうまく行うことができません。そのため、意識的に腹式呼吸をすると背筋が伸び、姿勢が良くなるでしょう。
● 歌声が安定する
学校の合唱の授業などで「腹式呼吸をしましょう」といわれた人もいるかもしれません。腹式呼吸によって腹圧を高めると体幹が安定し、身体のバランスがとりやすくなります。
お腹をしっかり使って声を出せるようになると、声の響き方が変わり、音域や表現力が広がります。また、声量のコントロールもしやすくなるため、歌声が安定してくるでしょう。高音なども出しやすくなるため、一曲歌うときもバテることなく余裕を持ちながら歌いきることができます。
腹式呼吸のデメリットとは?
腹式呼吸のメリットについて解説してきましたが、逆に腹式呼吸のデメリットはあるのでしょうか。ここでは2つのデメリットをご紹介しいます。
● 過呼吸になる可能性も
腹式呼吸をやりすぎると、頭がクラクラしたり、めまいや息苦しさを引き起こしたりすることがあります。これは、いわゆる過呼吸といわれる状態。過呼吸は過換気症候群とも呼ばれ、必要以上に空気を吸い込んでしまうことで、体内の酸素が急速に増えてしまい、二酸化炭素が減り過ぎてしまいます。
普段、人間の血液は中性に保たれていますが、二酸化炭素が足りなくなることで急激に血液がアルカリ性に傾いてしまいます。そうなると、頭痛やめまい、息苦しさ、手足のしびれなどを感じるようになるのです。
● 胸郭の動きが鈍くなる
腹式呼吸ばかりに行っていると、胸式呼吸によって使われるはずの肋間筋を中心とした呼吸筋が使われる機会が減るため、呼吸筋の衰えにつながる可能性も指摘されています。
また、胸郭の動きが鈍る可能性も。胸郭とは肋骨や背骨で覆われている部分で、肺や心臓などを保護する役割があります。胸郭の動きが変わるだけで呼吸の深さや肩の可動域なども変わっていきます。
さらに、呼吸筋は20代をピークに加齢とともに衰えていくといわれています。呼吸筋は横隔膜だけではなく、肋間筋や腹筋など多くの筋肉で構成されており、それらをバランスよく使っていくことが大切です。
腹式呼吸を実践してみよう!
腹式呼吸が私たちの身体にもたらすメリットについて理解したうえで、実際に腹式呼吸を行ってみましょう。
● 寝ながら行う腹式呼吸
寝ながら行う腹式呼吸はリラックスした状態で呼吸することができるため、腹式呼吸をやりはじめたばかりであまり慣れていないという方にはおすすめの方法です。手を胸とお腹にあてながら行うと、腹部の動きが分かりやすくやりやすいでしょう。
(やり方)
1. 仰向けになり、軽くひざを立てる
2. 手を軽く胸とお腹にあてる
3. 口から息をすべて吐き出し、余分な力を抜く
4. 鼻からゆっくりと息を吸いながら、お腹を膨らませる
5. 口から「ふーっ」と息を吐きながら、お腹をへこませる
● 座って行う腹式呼吸
腹式呼吸を座って行う方法についてご紹介します。腹式呼吸を座って行うことのメリットは場所を問わず、気軽に取り組めることではないでしょうか。仕事の合間や休憩に、短時間でも構いませんので、その場で腹式呼吸を行ってみましょう。
(やり方)
1. 背すじを伸ばし骨盤を立てて、楽な姿勢で座る
2. 口から息をすべて吐き出し、余分な力を抜く
3. 鼻からゆっくりと息を吸いながら、お腹を膨らませる
4. 口から「ふーっ」と息を吐きながら、お腹をへこませる
回数は1日5回程度からはじめ、慣れたら10~20回を目安に行いましょう。
腹式呼吸を行うときのコツ
「腹式呼吸の具体的な方法は分かったけど、いざやってみると難しい……」と思う方も多いのではないでしょうか。ここでは、腹式呼吸を行ううえでおさえておきたいポイントをお伝えします。腹式呼吸を行うときのコツは以下の6つです。
- 無理にお腹を膨らませ過ぎない
- 肩を下げる
- 正しい姿勢で行う
- 鼻呼吸がカギ
- 息を吐くことに意識を向ける
- 腹式呼吸が私たちの身体にもたらすメリットについて理解したうえで、実際に腹式呼吸を行ってみましょう。 ●寝ながら行う腹式呼吸 寝ながら行う腹式呼吸はリラックスした状態で呼吸することができるため、腹式呼吸をやりはじめたばかりであまり慣れていないという方にはおすすめの方法です。手を胸とお腹にあてながら行うと、腹部の動きが分かりやすくやりやすいでしょう。 継続して行う
どれも基本的なことですが、無意識に呼吸をしているとなかなかできていない、ということばかりではないでしょうか。一度にすべて意識しようと思うと難しいかもしれません。徐々に習慣化できるように一つずつ身につけていきましょう。
① 無理にお腹を膨らませ過ぎない
腹式呼吸は「ゆっくりと息を吸いながら、お腹を膨らませる」ことが基本です。しかし、無理にお腹を膨らませようとすると、かえって息苦しさを感じることがあります。そのため、無理にお腹を膨らませ過ぎないようにしましょう。もし、お腹の動きを確認しにくい場合は、はじめのうちは胸やお腹に手のひらをあてて、お腹の膨らみを確認しながら呼吸を行ってみましょう。
② 肩を下げる
大きく息を吸い込もうとすると、特に肩まわりに余計な力が入りがちです。身体に余分な力が入るとうまくお腹が使えないため、耳から遠く離すようなイメージで、肩をなるべく引き下げましょう。
③ 正しい姿勢で行う
猫背や前かがみの姿勢で腹式呼吸を行っても、空気がお腹に届きにくく腹式呼吸の効果を十分に感じることができません。頭上から1本の糸で吊られているイメージで、背筋を伸ばして、骨盤を立てた状態で腹式呼吸を行いましょう。
④ 鼻呼吸がカギ
口で呼吸すると浅い呼吸になりがちであるため、鼻呼吸で深い呼吸を行うようにしましょう。口呼吸と鼻呼吸では、呼吸の質がまったく違います。口やのどが乾きやすい方は、口呼吸を行なっている可能性が高いでしょう。また、鼻ではなく口で呼吸すると、体内に供給される酸素量が減り、といわれています。
鼻呼吸では、吸い込んだ空気が肺に入る前にいらないものを取り除き、温めて湿気を与えてくれるため、鼻呼吸は天然の「空気清浄機」ともいわれています。鼻呼吸には、心拍数を下げてくれる効果もあるため、日常生活においても積極的に鼻呼吸を取り入れてみてくださいね。
⑤ 息を吐くことに意識を向ける
「深い呼吸をしましょう」というと、息を吐くことよりも息を吸うことに意識が向きがちなのではないでしょうか。しかし、呼吸は、息を吸うよりも吐くことのほうが大切であるといわれています。そのため、息を吸ったあとは、吸うときの倍くらいの時間をかけて、身体の中の悪いものをすべて出しきるようなイメージで、息を吐ききりましょう。
⑥ 継続して行う
「継続は力なり」という言葉があるように、腹式呼吸も継続的に行うことが大切です。1日数回、短時間でもかまいませんので、できれば毎日、腹式呼吸を取り入れるようにしましょう。可能であれば「朝起きたら5回」「夜寝る前に5回」など、腹式呼吸を行うタイミングをあらかじめ決めておくと習慣化しやすいかもしれません。
腹式呼吸を行う、おすすめのタイミング
腹式呼吸を行うタイミングを間違えると、自律神経の乱れにもつながり、逆効果になることも。ではどのようなときに腹式呼吸を行えばいいのでしょうか。ここでは腹式呼吸を行うおすすめのタイミングをお伝えします。
● 発表会や人前で話すとき
発表会に出た時や人前で話す時、緊張や不安からで身体がガチガチに強ばっている……という経験をしたことはないでしょうか。気がかりなことがあると自然と意識が向いてしまい、ネガティブなイメージから、緊張が引き起こされて続いてしまっている状態です。
そこで、腹式呼吸を行い、浅く早くなっている呼吸を整えることで身体的な緊張をほぐし、おだやかな心の状態を取り戻していきます。
● カラオケや発声練習をするとき
腹式呼吸は、発声の基本ともいわれ、歌うことのベースとなります。そこで、カラオケや歌唱の前に発声練習を行う際は、腹式呼吸を取り入れてみましょう。腹式呼吸をしっかり身につければ、その後、ビブラート、ロングトーン、ハイトーンなどの歌唱技術も習得しやすくなります。
● 寝る前
夜遅くまで仕事をしていたり寝る直前までパソコンやスマホを見ていると、交感神経が優位になり、なかなか寝付けなくなってしまいます。その状態を改善し、副交感神経を優位にするために、腹式呼吸が役立ちます。
リラックスを目的とし呼吸を行う場合、胸ではなくお腹をつかう腹式呼吸が効果的です。眠る前に深い呼吸を行うことで寝付きがよくなるだけでなく、睡眠の質も向上するでしょう。
呼吸の質を高めて、心身を整えよう
人間は一日に2万回の呼吸をしているといわれ、生きていくうえで呼吸はなくてはならない動作です。なかでも、自然と呼吸を深めてくれる腹式呼吸は、基礎代謝のアップや免疫力の向上など、私たちの身体にさまざまなメリットをもたらします。
また、腹式呼吸は特別な環境や道具を必要とせず、思い立ったときにその場で行うことができます。最初は腹式呼吸をうまくできなかったとしても、続けて行うことで、腹式呼吸のコツをつかめるようになり、お腹の動きもよくなっていきます。気軽に腹式呼吸を取り入れて、日々の呼吸の質を高め、心身を整えましょう!